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: ファジィ関係 : ファジィ理論の数学的基礎 : ファジィ集合間の演算   目次


種々のファジィ集合演算子

前節に見たようにファジィ集合間の基本演算は,その定義においてメンバシップ関数のグレード間にどの演算子を用いるかによって決まる.その元となる演算子としては,否定演算子,積演算子,和演算子などがあった.

否定演算子

否定演算$n(x)$は,簡単に言えば,高いグレードを低いグレードへ,逆に低いグレードを高いグレードに置き換える関数である.したがって,当然,定義域も値域も区間$[0,1]$,つまり,

\begin{displaymath}    
n : [0,1] \rightarrow [0,1]    
\end{displaymath}

である.ここで,さらにこの関数が,


を満たすとき,$n(x)$は否定演算といわれる.つまり,否定演算は,グレード0をグレード1に,グレード1をグレード0に置き換え,あるグレードを二重に否定するともとのグレードに戻る関数である.直感的にいえば,図4.3(a)に示すように$(0,1)$$(1,0)$を通る単調減少関数で,$Y=X$の直線に関して対称な関数であればよい.その特別な場合として,図4.3(b)に示す否定,つまり,

\begin{displaymath}   
n(x)=1-x   
\end{displaymath}

が通常は使われる.

図 4.3   否定演算子の例

(a) 一般例

(b) 否定演算 n(x)=1-x

 

積演算子

積演算子は一般的には,$t$- ノルム$T$と呼ばれ,ファジィ集合間の交わりの演算の定義の元となる演算子である.これは,大ざっぱにいえば,二つのグレードに対して,そのどちらか小さい方のグレードよりもさらに小さいか同じ大きさのグレードを返す関数である.つまり感覚的には,$t$- ノルムあるいは積演算子は,二つのグレードが「制限しあった」結果をグレードとして返すものと考えればよい. $t$- ノルムは二つのグレードに対して一つのグレードを返すので,当然,

\begin{displaymath}    
T : [0,1] \times [0,1] \rightarrow [0,1]    
\end{displaymath}

なる関数であり,厳密には,$t$- ノルム$T$は,


を満たす関数として定義され,区間$[0,1]$において単位元1および零元0を持つ可換半群を成す. 具体的には,以下に示す$t$- ノルムがよく用いられる.


上記以外にも一般的な$t$- ノルムは定義されるが詳細は,文献[19]を参照されたい.

和演算子

和演算子は一般的には,$s$- ノルム$S$と呼ばれ,ファジィ集合間の結びの演算の定義の元となる演算子である.これは,大ざっぱにいえば,二つのグレードに対して,そのどちらか大きい方よりもさらに大きいか同じ大きさのグレードを返す関数である.つまり感覚的には,$s$- ノルムあるいは和演算子は,二つのグレードが「助長しあった」結果をグレードとして返すものと考えればよい. $s$- ノルムも二つのグレードに対して一つのグレードを返すので,当然,

\begin{displaymath}    
S:[0,1]\times[0,1]\rightarrow[0,1]    
\end{displaymath}

なる関数であり,厳密には,$s$- ノルム$S$は,


を満たす関数として定義され,区間$[0,1]$において単位元0および零元1を持つ可換半群を成す.ここで$t$- ノルムと$s$- ノルムの違いは,(i)の境界条件だけであることに注意する. さてここで,ある否定$n(x)$とある$t$- ノルム$T(x,y)$があるとするとき,

\begin{displaymath}    
S(x,y)=n(T(n(x),n(y)))    
\end{displaymath}

なる$S(x,y)$は必ず$s$- ノルムとなり,この$S$は「$T$$n$- 双対」であるという.前節で述べたように,$n(x),T(x,y)$と,さらに$T$$n$- 双対な$S(x,y)$を用いて,ファジィ集合の基本演算を定義すれば,ファジィ集合論は展開される.ここで,否定$n(x)$として$1-x$を用いる場合は,「$n$- 双対」は単に「双対」と呼ばれる. 具体的な$s$- ノルムとしては,以下のものがよく用いられるが,これらは,それぞれ先に挙げた$t$- ノルムと双対になっている.


平均演算子

$t$- ノルムと$s$- ノルムの中間的なものとして,平均演算子が存在する.これは,グレード$x$とグレード$y$に対して,その間の値をグレードとして与えるものである.古典的な,調和平均,幾何平均,算術平均をはじめ種々の平均演算子が考えられるがファジィ集合の基本演算の定義には使われないので,ここでは詳細は省略する.ただ,ここでは,平均演算子が,$t$- ノルムと$s$- ノルムの中間に位置するということと,これを用いれば,二つのファジィ集合間の平均ファジィ集合を定義することができることを述べるにとどめる.

演算子間の位置づけ

積演算子($t$- ノルム),和演算子($s$- ノルム),平均演算子の大きさ(同じ$(x,y)$に対する関数の値の大きさ)には,図4.4のような大小関係がある.論理積($\land$)は積演算の中では最も大きな演算子であり,感覚的には,「制限の仕方が最も控え目」な積演算子ととらえることができる.また論理積と双対な和演算である論理和($\lor$)は和演算の中では最も小さな演算子であり,感覚的には,「助長の仕方が最も控え目」な和演算子ととらえることができる.つまり,積演算と和演算のペアは最も控え目なファジィ集合間の演算を定義する.これに対して,激烈積と激烈和のペアは最も激しく極端なファジィ集合間の演算を定義するもので,それゆえに「激烈」の名前が冠されている.

図 4.4   積演算子間の位置づけ


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平成12年5月17日