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: ファジイ理論の概要 : ソフトコンピューティング 講義資料(I) : 目次   目次

緒言

1965年にカリフォルニア大学のZadeh教授によりファジィ集合に関する論文が発表されて以来,曖昧さを取り扱う理論のひとつであるファジィ理論の研究は発展しつづけてきた.特に近年において工学分野でのファジィ応用システムの実用価値が認知されるに及んで,研究レベルの進歩に留まらず,ファジィ理論を応用した製品が続々と発表される近況になっている. 本報告は,曖昧さを伴うシステムの取り扱いにおいて極めて実用的な応用価値が高いと認められているファジィ理論の図形および画像の分野での応用を狙いとして,その可能性をさぐる基礎調査を行った結果である. ファジィ理論応用システムの実現例は現在までに枚挙の暇がないほど発表され続けており,その実用的な有効性が非常に評価されているが,その殆どはシステムの制御への応用となっている.これは,システム制御で必要となるファジィ理論の要素技術がファジィ理論の中でも比較的単純な推論技術であることに関係していると思われる.この単純な推論技術に基づく制御アルゴリズムは既にある程度確立しており,しかもこのアルゴリズムがファジィ理論の数学的な裏付けを理解しなくとも直感的に納得しやすいことが制御へのファジィ理論応用の流行に拍車をかけている. これに対しファジィ理論の図形,画像処理分野への応用はいまだ微々たるものであり十分にこの分野における応用技術が確立されているとはいえない.これは,図形,画像処理では,基本的に認識問題が中心となり,この問題の解決にはかなり高度なファジィ推論技術を駆使しなくてはならないためである.このような事情から,ファジィ理論の図形,画像処理の分野での応用を考える場合には,過去の応用例の流用は難しく,もっと根本的にファジィ理論の性質を理解することが要求される. このファジィな状況に鑑みて,本報告は,ファジィ理論の図形,画像処理の分野での応用をにらんだ上で必要不可欠となるファジィ理論の基礎概念に焦点を絞り,その説明に大部分をあてる.説明に当たっては,応用を考える上でファジィ理論の実態をよく見通せるようになることが重要であると考えた.そのため,いたずらに数式をいじくることは極力避け,なるべく図面によって幾何学的なイメージで,意味を解釈できるように心がけた.また通常のファジィ理論に関する文献においてていぎされている諸定義に少なからず混乱が見られるため,これを整理して統一的に理解できるように,随所に注意を加えた.全体として,意味,解釈の説明に重きを置いたため,説明が若干,冗長であったり,厳密な証明ではなかったりする場合もあるが,この場合は文献リストに挙げた文献などを参照されたい.本報告書は7章より構成されるが,以下に本論の5つの章の内容を挙げる.

第2章 ファジィ理論の概要

ここでは先ず,ファジィ理論とはどのようなものかということを大ざっぱに捉えるためにファジィ理論の使われ方及びファジィ集合とその基本演算について概観する.次に,ファジィ理論とはどのような種類の曖昧さを取り扱う理論なのかということを,特に確率論のそれと比較して説明する.これをはっきりりかいすることが,ファジィ理論をどのようなシステムに応用すれば効果が期待できるのかを判断するために不可欠である.

第3章 ファジィ推論の概要

最も応用例の多いファジィ制御を中心に,その要素技術となる基本的な推論アルゴリズムの概要を実例を挙げて説明する.ここでは,数学的な解釈はせず,アルゴリズムの表面的な概観によりファジィ理論の応用の実態がどのようなものであるかを概説するにとどめる.

第4章 ファジィ理論の数学的基礎

ファジィ理論の応用分野が図形,画像の処理であるという前提のもとに,その応用に必要となるであろうファジィ理論の数学的な基礎について論じる.またこれは,5章でのファジィ推論の数学的な解釈の準備ともなる.

第5章 ファジィ推論の数学的解釈

4章で準備された数学的基礎を土台に,ファジィ推論がファジィ理論に基づいてどのように導出され解釈されるかについて論じる.また最後に3章でとりあげた具体的なファジィ推論アルゴリズムの数学的な解釈を試みる.

第6章 ファジィ理論の図形,画像分野における応用例

ファジィ理論の図形,画像分野における過去の応用例のうちの代表的なものとして,ファジィ・クラスタリングと図形認識の例を概観する.特に,理論的に興味深い「農産物の形状認識」に関しては,そのアルゴリズムの説明を行う.



平成12年5月17日