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: ファジィ関係の演算 : ファジィ理論の数学的基礎 : 種々のファジィ集合演算子   目次


ファジィ関係

前節までに議論したファジィ集合の台集合(全体集合)は,1次元のものであった.つまり,1次元の集合の拡張としてのファジィ集合のみを取り扱ってきた.しかし,通常の集合には,例えば

\begin{displaymath}   
\{(x,y)\,\,\vert\,\,2\leq x\leq 8 かつ 4\leq y\leq 10\}   
\end{displaymath}

のような2次元の集合もある.この2次元集合は,図4.5のように$X-Y$平面上に表現されるが,この表現は1次元集合の場合に数値線上の区間として表現したものに呼応している.ここで,ファジィ集合に対しても同様に2次元の通常の集合の拡張として,2次元のファジィ集合が定義される.この2次元のファジィ集合のことをファジィ関係と呼ぶ.さらに一般化して,$n$次元の集合の拡張として,$n$項ファジィ関係も定義される.

図 4.5   2次元集合の例

ファジィ関係のメンバシップ関数

ファジィ関係とは,2次元のファジィ集合とでもいうべきもので,ファジィ集合を定義するための全体集合(台集合)を2次元集合として,その上でメンバシップ関数を与えることにより定義される.即ち,変数$X$の全体集合$U$,変数$Y$の全体集合を$V$とすれば,変数の組$(X,Y)$の全体集合は,$U\times V$つまり,$U$$V$の直積集合であるから,

\begin{displaymath}   
\mu_R : U\times V \rightarrow [0,1]   
\end{displaymath}

なる2変数のメンバシップ関数

\begin{displaymath}   
M=\mu_R(X,Y)   
\end{displaymath}

によってファジィ関係$R$は,1次元のファジィ集合と同様に特徴付けられる.このメンバシップ関数を$X-Y$平面上にグレード$M$を表す軸を付け加えて3次元的にスケッチすると,例えば図4.6のように$X-Y$平面上の盛り上がりとして表現できる.またファジィ関係は,通常の(クリスプな)2次元集合の拡張とみなすことができるから,図4.5の集合は,ファジィ集合のメンバシップ関数の特別な場合と考えて,図4.7のように表現することもできる.2次元の場合も,クリスプ集合のメンバシップ関数(特性関数に他ならない.)は,0か1の二値しかとらないのがわかる.図4.6,図4.7の例では,$U$$V$も連続な無限集合の場合であるが,$U,V$の何れか,あるいは両方とも有限集合の場合も有り得る.図4.8(a)は$U$が無限集合で$V$が有限集合の場合,図4.8(b)は$U,V$共に有限集合の場合のメンバシップ関数の例を表している.

図 4.6   ファジィ関係のメンバシップ関数の例

図 4.7   クリスプなファジィ関係のメンバシップ関数(特性関数)の例

図 4.8   有限ファジィ関係のメンバシップ関数の例

(a) Vのみが有限集合の場合

(b) U,Vともに有限集合の場合

ファジィ関係のメンバシップ関数による表記法

ファジィ関係の表記は,4.1で述べた1次元のファジィ集合の表記法に倣って以下のようにすることができる. まず$U,V$共に有限集合,つまり$(X,Y)$の全体集合$U\times V$が有限集合


の場合は,ファジィ関係$R$

\begin{displaymath}   
R=\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}\mu_R(u_i,v_j)\big/(u_i,v_j)   
\end{displaymath}

と表記される.実際には,もっと簡便な表記法として,1次元のファジィ集合の場合のベクトル表現に対応する行列表現


がよく用いられる.図4.8(b)の$X-Y$平面の広がりが,2次元行列の広がりに対応していて,平面上の離散的なメンバシップ関数の高さ(グレード)が2次元行列の各要素の値として並べられているものとみれば,この行列表現は図のメンバシップ関数の形状と直接的に対応しているのがわかる. $(X,Y)$の全体集合$U\times V$が連続の場合は,積分記号をもちいて,

\begin{displaymath}    
\int_{U\times V}\mu_R(u,v)\big/(u,v)    
\end{displaymath}

と表記する.

関係と2次元集合あるいはファジィ関係と2次元ファジィ集合

前節まで説明した,2次元の全体集合上に定義されたファジィ集合は2次元のファジィ集合とでもいうべきものだが,通常これは,ファジィ関係と呼ばれる.それは,このファジィ関係が,$U$の要素と$V$の要素の間にある関係を与えるからである.このファジィ関係は,次章で述べるファジィ推論を理解する上で非常に重要となる.なぜなら,推論は各事象間の関係をよりどころに,前提となる事象から結論となる事象を得るものであるからだ. さて,まずファジィ関係を考える前に,通常の(クリスプな)2次元集合の場合を考える.すると2次元のクリスプ集合も$U$の要素と$V$の要素の間の関係を与えることがわかる.ここに,ある2次元のクリスプ集合 $A\subseteq U\times V$を考えると,これは,$U$の任意の要素$u$$V$の任意の要素$v$の間に$A$によって特徴づけられる関係があるかどうかを表していると考えられる.つまり,ある要素 $(u,v)\,(u\in U\times V)$$A$に含まれていれば$u$$v$には$A$という関係があり,含まれていなければ$A$という関係はないことを表している.ここで,$A$はクリスプ集合であるから,含まれるか含まれないか,関係があるかないかのどちらかである. 具体的な例として,例えば関係の特別な場合,即ち関数を考える.$U,V$を共に区間$[0,8]$として,$U$の要素を表す変数$X$$V$の要素を表す変数$Y$の間に,

\begin{displaymath}    
Y=X+2    
\end{displaymath}

なる関係があるとし,これを関係$A$としよう.これをグラフに表すと図4.9(a)のような線分が得られる.このときグラフ上の線分そのものは,$U\times V$の(クリスプな2次元)部分集合であることに注意すると,この部分集合が関係$A$そのものであるとみなすことができる.つまり,ある任意の要素 $(u,v)\,(u\in U\times V)$が集合$A$(図の線分そのものに他ならない)に含まれれば$u\in U$$v\in V$の間には,$A$の関係(つまり$v=u+2$の関係)があり,含まれなければその関係は成立しないということを表している.図4.9(a)のクリスプ集合$A$(即ち線分)をメンバシップ関数を用いて図4.9(b)のようにスケッチすると,グレードが1の部分の$(u,v)$には関係$A$があり,グレードが0の部分の$(u,v)$には関係$A$がないとみることができる.

図 4.9   関係$A$$Y=X+2$

(a) グラフによる表現

(b) メンバシップ関数による表現

 

図 4.10   クリスプな関係とファジィな関係

(a) クリスプな関係の例:「X>Y

 

(b) ファジィな関係の例:「XYより非常に大きい」

このように,2次元のクリスプ集合$A$は,ある関係$A$を表し,2次元の全体集合$U\times V$すべての要素$(u,v)$(つまり$u (\in U)$$v(\in V)$のすべての組合せ)に対して,それが$A$で特徴付けられる関係を満たすかどうかをグレード $\mu_A(u,v)\,(\in \{0,1\})$によって示す.しかし,ここで,クリスプ集合の場合は,グレードが0か1の何れかしかとらないので,関係があるかないかがはっきりいえるような関係しか表せない.例えば,

\begin{displaymath}    
関係:X > Y    
\end{displaymath}

の場合,変数の組$(X,Y)$の値 $(u,v)\,(\in U\times v)$がこの関係を満たすかどうかはっきりいえるので(例えば$(6,2)$は満たすが,$(2,5)$は満たさない.),図4.10(a)のような2次元のクリスプ集合によって表される.しかし,

\begin{displaymath}    
関係:XはYより非常に大きい    
\end{displaymath}

という曖昧な関係の場合は,任意の $(u,v)\,(\in U\times V)$がこの関係を満たすかどうかをはっきり,断言できるとは限らない.例えば$(2,5)$の場合なら,$X=2$$Y=5$より小さいから,上の関係は明らかに成立しない(2は5より非常に大きいとはいえないと断言できる)といえるが,$(6,2)$の場合は,上の関係が成立するか成立しないか(6が2より非常に大きいかどうか)を断言することはできない.このような曖昧な関係を表す手段を与えてくれるのが2次元のファジィ集合,即ちファジィ関係であり,例えば,図4.10(b)のようなファジィ関係は,上の曖昧な関係を表しているということができる.ここで,$(6,2)$のグレードが0.5ということは,$(6,2)$には上の関係が半分成立するということを表している.このようにファジィ関係は2変数間の曖昧な関係を表現しているとみることができ,これが「ファジィ関係」と呼ばれる由縁である.

n項ファジィ関係

ファジィ関係は,2次元のクリスプ集合の拡張であったが,同様にして,$n$次元のクリスプ集合に対してもそのファジィ的な拡張が可能である.これが一般に$n$項ファジィ関係と呼ばれるものである.$n$項ファジィ関係は$n$次元の全体集合(台集合)のファジィ部分集合であり,全体集合のすべての要素に対して区間$[0,1]$の中のある値を与える$n$変数のメンバシップ関数

\begin{displaymath}   
M=\mu_R(X_1,X_2,...,X_n)   
\end{displaymath}

を与えることにより,特徴付けられる.したがって,通常,ファジィ集合と呼ばれるのは1項ファジィ関係(1項で関係といえるかどうかは別として,少なくとも形式的にはこういえる),単にファジィ関係と呼ばれるのは2項ファジィ関係とみなすことができる.$n$項ファジィ関係は$n$個の変数の曖昧な関係を表すことができ,その取扱いは,ファジィ集合,ファジィ関係の取扱いから容易に類推されるが,3項ファジィ関係以上を図示することは,グレードを表す軸を含めると4次元以上が必要となり,困難になる.
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平成12年5月17日