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ファジィ関係の演算

ここでは,ファジィ関係の演算について説明する.図示の都合上,2項ファジィ関係についてのみ説明するが,$n$項ファジィ関係に関しては,容易に類推可能であろう.

ファジィ関係の基本演算(包含,交わり,結び,補集合)

いま,全体集合を$U\times V$,要素 $(u,v)\,(\in U\times {}_VR)$に対するファジィ関係$A$および$B$のグレードがそれぞれ$\mu_A(u,v)$および$\mu_B(u,v)$とすると,4.2節の基本演算の定義において,

\begin{eqnarray*}      
&U &\Rightarrow \quad U\times V\\      
&u &\Rightarrow \quad (u,...      
...ow \quad \mu_A(u,v)\\      
&\mu_B(u) &\Rightarrow \quad \mu_B(u,v)      
\end{eqnarray*}



と置き換えれば,ファジィ関係$A$$B$との間の基本演算は定義される. 即ち包含($A\subseteq B$)は,すべての $(u,v)\in (U\times V)$に対して,

\begin{displaymath}      
\mu_A(u,v)\leq \mu_B(u,v)      
\end{displaymath}

のときと定義され,また,交わり($A\cap B$),結び($A\cup B$),補集合not($A$))(それぞれファジィ関係となる.)のメンバシップ関数は,すべての $(u,v)\,(\in U\times V)$に対して,


と与えられる. ここで,例えば,$A$を図4.11(a)のようなピラミッド型のファジィ関係,$B$を図4.11(b)のようなテント型のファジィ関係とすれば,これらの間の基本演算の結果は図4.12から図4.14に示すようになる.但し,この例では,$t$- ノルムとして論理積($x\land y$),$s$- ノルムとして論理和($x\lor y$),否定として($1-x$)を用いている.

図 4.11   ファジィ関係の例

(a) ファジィ関係の例:A

(b) ファジィ関係の例:B

 

図 4.12   ファジィ関係の演算例:$A\cap B$

図 4.13   ファジィ関係の演算例:$A\cup B$

図 4.14   ファジィ関係の演算例:not($A$)

ファジィ集合の直積

クリスプな1次元集合同士の直積が2次元の集合になるように,ファジィ集合間にも直積が定義され,その結果は,ファジィ関係となる.いま,$A,B$をファジィ集合とすると,直積$A\times B$(これは,ファジィ関係である.)のメンバシップ関数は,

\begin{displaymath}     
\mu_{A\times B}(u,v)=\mu_A(u) \land \mu_B(v)     
\end{displaymath}

と通常は定義される.図4.15に図示するように,例えば,三角形のファジィ集合間の直積としては,ピラミッド型のファジィ関係が得られているのがわかる.

図 4.15   ファジィ集合間の直積の例:$A\times B$

ところで,このピラミッド型は,$A$$B$に関係したテント型の部分は,それぞれ$A$および$B$の「円柱集合」と呼ばれるものであり,後で説明する.)の交わりとみなすことができる.これは,$A,B$がクリスプ集合の場合には直積$A\times B$$u\in A$かつ$v \in B$である$(u,v)$の集合として得られることと対応している.このように,交わりを用いて,直積を定義すると考えられるならば,交わりの定義に用いる$t$- ノルムに何を使うかによって,上式の形とは違う形の直積が定義される.即ち,直積は,一般に,

\begin{displaymath}      
\mu_{A\times B}(u,v)=T(\mu_A(u),\mu_B(v))      
\end{displaymath}

という形で定義されるべきである.

図 4.16   クリスプ集合間の直積の例:$U\times V$

何れの$t$- ノルムを用いようと,上の定義はクリスプ集合の直積の拡張となっている.例えば,クリスプな集合である全体集合$U,V$の直積を上の定義に基づいて求めると,図4.16のようなクリスプな$U\times V$のメンバシップ関数が得られ,これが通常の意味での$U,V$の直積となっているのがわかる.

注意

直積の定義として論理積($\land$)によるものだけを取り上げている文献が多いので注意.後に説明する拡張原理や,ファジィ推論などにおいて,論理積以外の$t$- ノルムを用いる場合などを考えると,直積を上のような一般形としてとらえた方がよい.

円柱集合(Cylindrical Extention)

全体集合$U$上のファジィ集合$A$を図4.17に示すように,別の全体集合$V$方向に拡張して得られるファジィ関係を円柱集合(Cylindrical Extention)と呼ぶ.図を見てわかるように,これは,$A$$V$の直積

\begin{displaymath}      
A\times V      
\end{displaymath}

に他ならない.ここで,$V$のメンバシップ関数$\mu_v(v)$は常に1であることに注意すれば,

\begin{displaymath}      
\mu_{(A\times V)}(u,v)=T(\mu_A(u),\mu_V(v))=\mu_A(u)      
\end{displaymath}

である.

図 4.17   円柱集合(Cylindrical Extention)の例:$A\times V$

図 4.18   射影の例:${}_UR$${}_VR$

射影

射影は,ファジィ関係の$U$または$V$上への影として得られるファジィ集合で,ファジィ関係$R$$U$上への射影を${}_UR$$V$上への射影を${}_VR$とかく.図4.18にその例を示す.したがって,${}_UR$${}_VR$のメンバシップ関数は,


となる.ここで,

\begin{displaymath}    
\sup_v, \qquad \sup_u    
\end{displaymath}

は,それぞれ,すべての$v(\in V)$に対する値の上限値をとる演算,すべての$u (\in U)$に対する値の上限値をとる演算である.ここで,メンバシップ関数の値,即ちグレードは,ある確定値なので,実際には上式のように最大値をとる演算に置き換えても同じである. ここで図4.19のファジィ関係$R'$を考えると,これは,ファジィ関係$R$とまったく同じ影響を与えるのがわかる.このように,一般に,同じ射影を与えるファジィ関係は無数にある.ここで,図4.19$R'$は,二つの射影の(論理積$\land$の意味での)直積になっているのだが,これが,この射影を与えるファジィ関係の中の最大のものになることは,図から容易にわかる.つまりある二つの射影の論理積$\land$の意味での直積は,その射影を与えるファジィ関係のなかで最大のものを与える.ここで,最大という意味は,このファジィ関係が,他のどのファジィ関係をも包含するという意味である.

図 4.19   射影${}_UR$${}_VR$を与える最大のファジィ関係$R'$

注意

射影の定義で用いられる$\lor$は上限をとる操作に由来するものであり,$\cup$定義に由来するものではない.したがって,$s$- ノルムとして,何を採用しようと,射影は,常に$\lor$によって定義される.
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平成12年5月17日