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拡張原理

拡張原理は,ファジィ集合からファジィ集合への写像の方法を与える重要な原理である.写像の特別な場合である,関数の取扱いもこれにより導かれる.

拡張原理の定義

写像 $f:X\rightarrow Y$を拡張して,$f$によるファジィ集合$A$に対する像$f(A)$は次のようなメンバシップ関数をもつファジィ集合と定義される.


これは,次のように読めばよい.つまり,「像$f(A)$の任意の$v\in V$に対するグレードは,$v=f(u)$となるようなすべての$u$(即ち$f^{-1}(v)$)の$A$に対するグレードのうちで最大(厳密には,上限)のものとする.ただし$v=f(u)$となる$u$が一つも存在しないときには,$v$に対するグレードは0とする.」である. 例えば簡単な場合として,図4.23のような1対1写像$Y=f_1(X)$を考える.このときは$v=f_1(u)$となる$u$は(1対1ゆえ)一つしか存在しないから,上の定義のsupは事実上とる必要がない.つまり,$f_1(A)$$v$に対するグレードは$v=f_1(u)$を与える$u$$A$におけるグレードと一致する.要するに$U$のすべての要素をそれぞれ写像して,その像のグレードとして元の要素のグレードを用いることに他ならない.ここで,図4.23中の$\beta$の部分では,$v$の逆像が定義されない部分であり,グレードは0となる.この部分は,上の定義の2番目のケースに対応している.

図 4.23   拡張原理の例(1対1の写像の場合)

さて,一般には写像は,$n$対1であるから$v=f(u)$となる$u$は複数存在する.この場合は,$v$のグレードとしては,それら複数存在する$u$のグレードのうちで最大のものを採用するというのが,上の定義のsupの意味である.例えば,図4.24のような写像$f_2$を考えると,$v_1=f_2(u)$を与える$u$としては,$u_1$$u_2$の二つがある.したがって,ここでは,$f_2(A)$$v_1$におけるグレードとして,$\mu_A(u_1)$$\mu_A(u_2)$のうちの大きい方,つまり$\mu_A(u_1)$が選ばれる.

図 4.24   拡張原理の例(2対1の写像の場合)

この写像の拡張原理は普通の文献では天下り的に定義されているが,よく考えると,この定義はファジィ関係の間の演算によって当然の帰結として導くことができる.ここで,詳細に説明する余裕はないが大筋は以下のようになる.まず,写像$f$$U\times V$上のファジィ関係$F$(実際には,2次元のクリスプ集合だがファジィ関係の特別な場合と見れば統一的な取扱いに便利なので)とみなすことができる.また$A$$U$上のファジィ集合だがこれを同じ「土俵上」つまり同じ台集合$U\times V$に乗せるために,その円柱集合$A\times V$を求める.そしていまここで,写像$F$$A\times V$が同時に成り立っているという意味で $F\cap(A\times V)$なるファジィ関係を求める.この得られたファジィ関係を$V$上に射影すると,これが,求める像$f(A)$となるのである.つまり,

\begin{displaymath}     
f(A)={}_V(F\cap(A\times V))     
\end{displaymath}

である.

直積空間での拡張原理

上の定義では,1変数の写像しか取り扱わなかった.ここでは,他変数の写像の場合を考える.即ち,全体集合

\begin{displaymath}     
U_1\times U_2\times \cdots \times U_n     
\end{displaymath}

の要素の変数

\begin{displaymath}     
(X_1,X_2,...,X_n)     
\end{displaymath}

を全体集合$V$の要素の変数$Y$に対応させる多変数の写像

\begin{displaymath}     
Y=f(X_1,X_2,...,X_n)     
\end{displaymath}

が与えられた場合,これをファジィ集合の写像に拡張する方法を考える. つまり,

\begin{displaymath}     
A_1\subseteq U_1,\,A_2\subseteq U_2,\, ... ,\,A_n\subseteq U_n     
\end{displaymath}

なる$n$個のファジィ集合に対する写像$f$による像

\begin{displaymath}     
f(A_1,A_2,...,A_n)     
\end{displaymath}

がどのようなファジィ集合として与えられるかである.これは,全体集合

\begin{displaymath}     
U_1\times U_2\times \cdots \times U_n     
\end{displaymath}

のファジィ部分集合

\begin{displaymath}     
A_1\times A_2\times \cdots \times A_n     
\end{displaymath}

に対する写像$f$による像としてとらえれば,直ちに解決する.即ち,

\begin{displaymath}     
f(A_1,A_2,...,A_n)=f(A_1\times A_2\times \cdots \times A_n)     
\end{displaymath}

と考える.ここで,

\begin{displaymath}     
A_1\times A_2\times \cdots \times A_n=A     
\end{displaymath}

と置けば,$A$ $U_1\times U_2\times \cdots \times U_n$上の$n$項ファジィ関係であるから,このメンバシップ関数は,

\begin{displaymath}     
\mu_A(u_1,u_2,...,u_n)     
\end{displaymath}

$n$変数で表される.したがって先の拡張原理では$A$がファジィ集合であったところを,ここでは,$A$$n$項ファジィ関係であると一般化して考えればよく,結局,$n$項ファジィ関係$A$の写像$f$による像は下のようなメンバシップ関数を持つファジィ集合$f(A)$として得られる.


これは,次のように読めばよい.つまり,「像$f(A)$の任意の$v\in V$に対するグレードは,

\begin{displaymath}    
v=f(u_1,...,u_n)    
\end{displaymath}

となるようなすべての組合せ

\begin{displaymath}    
(u_1,...,u_n) \quad (即ちf^{-1}(v))    
\end{displaymath}

$A=A_1\times A_2\times \cdots \times A_n$に対するグレードのうちで最大(厳密には,上限)のものとする.ただし

\begin{displaymath}     
v=f(u_1,...,u_n)     
\end{displaymath}

となる組合せ

\begin{displaymath}     
(u_1,...,u_n)     
\end{displaymath}

が一つも存在しないときには,$v$に対するグレードは0とする.」とである.

拡張原理とαレベル集合

Nguyenの定理よれば,拡張定理は$\alpha $レベル集合を用いて,等価的に下のように与えられる.

\begin{displaymath}[f(A)]_\alpha=f({A_1}_\alpha,{A_2}_\alpha,...,{A_n}_\alpha)    
\end{displaymath}

つまり,各々のファジィ集合の$\alpha $レベル集合による写像が,$A$の像のファジィ集合の$\alpha $レベル集合となることを示している.これによれば,ファジィ集合の写像を直接扱わなくとも,クリスプ集合である$\alpha $レベル集合の写像を考えて,最後に写像結果を重ね合わせればよい. しかし,ここで,よく考察すると,上の定理は,直積が,論理積($\land$)に基づいて定義されたときにしか成立しないことに注意する必要がある.より一般的には,Nguyenの定理は,以下のように表されるべきだろう.


ここで,直積が論理積($\land$)で定義される場合に限って最初のNguyenの定理のような特別な場合が成立するのは,この場合に限り,

\begin{displaymath}    
{A_1}_\alpha\times{A_2}_\alpha\times\cdots\times{A_n}_\alpha =[A_1\times A_2\times \cdots \times A_n]_\alpha    
\end{displaymath}

の関係(つまり,ファジィ集合間の直積の$\alpha $レベル集合が,それぞれのファジィ集合の$\alpha $レベル集合間の直積に一致するという関係)が成立するからである.
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平成12年5月17日