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: 参考文献 : ソフトコンピューティング 講義資料(I) : 農産物の形状認識   目次

結言

本報告の各章を概括すると次のようになる.

第2章

AIにおけるファジィ理論は自然言語表現などのあいまいさを表現するのに適した要素技術である.これは通常の集合(クリスプ集合)論の拡張としてファジィ集合論を導入することにより,曖昧な情報を扱うことができるようにしたものである.ファジィ理論の取り扱う曖昧さは主観的な曖昧さであり「可能性」を導く.これは,ファジィ理論が,客観的な曖昧さを「確率」として取り扱う確率論とは本質的に違う曖昧さを取り扱う理論であることを意味する.

第3章

制御などに用いられる,簡単なファジィ推論法の3つの例に関して,そのアルゴリズムが明らかにされた.この種のファジィ推論では,それぞれのルールの前件部および後件部,または,前件部のみで,ファジィ集合が用いられた.各々のルール内では,前件部と観測事実のファジィ的なマッチングによりそのルールの適合度が計算され,さらにその適合度によって後件部を修飾してそのルールの結論が得られた.最後に各ルールの結論を集約することによって最終的な推論結果が得られた.このような,ファジィ推論手法は,比較的少ないルールによってかなり柔軟な推論結果を導いた.

第4章

通常の集合の特性関数を拡張したメンバシップ関数を導入することにより,ファジィ集合が定義された.ここで任意の互いに双対な$t$- ノルムと$s$- ノルムの組を選択すれば,これに基づいてファジィ集合の基本演算が定義され,ファジィ理論の展開が可能となった.またファジィ集合を多次元に拡張してファジィ関係が定義された.続いて,ファジィ集合の写像が,$\alpha $レベル集合と拡張原理の導入により定義されたが,実は,この写像の概念は,ファジィ関係の演算を用いて必然的に導かれるものであった.さらにファジィ集合の特別な場合としてファジィ数の概念が導入され曖昧な数の表現が与えられた.ここでファジィ数間の計算法は写像の特別な場合として得られた.最後にファジィ集合はメンバシップ関数のファジィ化によってタイプ2ファジィ集合あるいは一般的にタイプ$n$集合へと拡張されることが示された.

第5章

通常の命題の拡張として,曖昧な真理値を扱えるファジィ命題が定義され,その標準形はファジィ集合を用いて表現された.また通常の含意命題の拡張としてファジィ含意命題が導入され,その標準形表現が導かれた.ここで,含意命題のファジィ化の方法にはZadeh,Lukasiewicz,Mandaniなどのいくつかのバリエーションが考えられた.つぎに上のようなファジィ命題(ファジィ含意命題を含む)の結合から新たな命題を導出する方法,即ち,ファジィ推論の基本的な規則が,ただひとつの継承原理を認めるとすべて導出されることが示された.ただし$t$- ノルムとして論理積によるもの以外を用いる場合には,連言規則も原理として別に認める必要があった.推論ルールとして,ファジィ含意が複数存在する場合には,ファジィ含意のバリエーションによって取り扱いが若干異なったが,基本的にファジィ関係上の演算で一つのルールに集約することができた.さらに,ファジィ数により表現される言語的真理値を導入し,これによりファジィ命題を限定する言語的真理値限定法を用いればより高度な推論が可能であることが示唆された.この言語的真理値の導入により初めて,否定と反意の区別がつくようになった.最後に3章で挙げたファジィ推論アルゴリズムはファジィ理論に基づいた数学的な解釈に裏打ちされていることを示した.

第6章

ファジィ的な概念を用いたファジィ・クラスタリングは,本質的に曖昧な境界を持っている要素のクラスタリングに有効であることが示された.ファジィ理論の農産物形状の認識への応用例では,逆真理値限定法とファジィ推論法1が巧みに組み合わされており,認識分野へのファジィ理論応用を考える上では示唆にとんだものであった. 本報告の内容によって,ファジィ理論の図形,画像分野への応用を考える上で,ある程度の見通しが利くようになったと思われる.この分野での応用として,いま,思いつくまま挙げると,
  1. 農産物形状の認識のような方法で,曖昧な図形の認識に応用する.
  2. 図形,画像を処理するシステムにおいて,オペレータの操作意図を推論するのに用いて,柔軟なマン・マシン・インタフェイスを実現する
  3. 自由形状のパラメトリック表現のパラメータの設定にファジィ推論を用いる.
  4. ファジィ・データベースを図形処理システムに導入する.
などが考えられるが,その実現のためには,本報告書では網羅できなかった,逆言語的真理値限定法,様相性(可能性,不可能性,偶然性,必然性),可能性限定法,確率限定法などのファジィ基礎理論についてもっと調査する必要がある.また,ファジィ・データベースに向いたデータ構造についても考察する必要がある.



平成12年5月17日