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ファジィ集合の基礎的演算
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ファジイ理論の概要
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ファジイとニューロ
 
目次
ファジィ集合
例えば「大きい数の集まり」,「若い人の集まり」,「美しい人の集まり」といったような境界のはっきりしない集まりは,通常,集合とは定義されない.これに対して,「100以上の実数の集まり」,「20才以下の人の集まり」,「美人コンテストでミスに選ばれたことのある人の集まり」などは,その集まりに含まれるかどうかがはっきりしており,通常の集合として取り扱われる.ファジィ集合は,前者のような曖昧な集まりを従来の集合のように定量的に扱うために,従来の集合の拡張として提案された概念である. あるひとつのファジィ集合は,ひとつのメンバシップ関数によって特性づけられる.メンバシップ関数とは,全体集合の各要素がそのファジィ集合にどの程度帰属しているかを示すもので,その度合(帰属度,確信度またはグレードなどと呼ばれる.)を0から1の間のある実数値で表すものである.ここで完全に帰属している場合は帰属度は1,完全に帰属していない場合は帰属度は0である.
図 2.2
ファジィ集合とクリスプ集合の例
(a) ファジィ集合の例「若い人の集まり」
(b) クリスプ集合の例「20才以下の人の集合」
(c) クリスプ集合「20才以下の人の集合」のメンバシップ関数による表現
例えば,いま全体集合を「0才から100才までの人の集合」とすれば,「若い人の集まり」としては図
2.2
(a)のようなメンバシップ関数
によるファジィ集合を定義することが可能であろう.ここで,例えば10才の人は,帰属度1(
),つまり完全に「若い人の集まり」に含まれており,35才の人は,帰属度0.5(
)で,つまり半分くらいの確信度でまあ「若い人」といえ,さらに50才の人は確信度0(
)で,つまりまったく「若い人」とはいえないということをあらわしている. これに対し,「20才以下の人の集合」は,通常の集合として図
2.2
(b)のように0から100までの数値線上の区間として表される.ファジィ集合は通常の集合の拡張であるから,通常の集合もファジィ集合の特別の場合として特性づけることができる.即ち,図
2.2
(b)は,図
2.2
(c)のように図示することができる.通常の集合の場合は,ある要素がその集合に帰属するかしないかがはっきりしているから,メンバシップ関数は,0か1の二値にいずれかしかとらず,その形は,矩形となる.つまり,その集合に含まれる要素に対しては帰属度1が,含まれない要素に対しては,帰属度0が与えられる.(この矩形のメンバシップ関数は,通常の集合に定義される特性関数にほかならないことに注意されたい.4.1節を参照のこと.) このように,通常の集合は,ファジィ集合の特別な場合であるが,特にこれを一般のファジィ集合と区別するときは,クリスプ(Crisp)集合と呼ばれる.ここでCrispとは,「ばりばりした」とか「歯切れのよい」といった意味の形容詞であるが,これは,図
2.2
(c)のメンバシップ関数の形から明らかであろう.図
2.2
(b)と同図(c)は表現法が違うだけで同じことを示している.クリスプ集合の表現としては,図
2.2
(b)の区間による表現が一般的であるが,ファジィ集合と統一的に理論を薦める場合には,図
2.2
(c)の表現が便利であり,しばしば用いられるので注意してほしい. なお,ここで,「若い人の集まり」を特性づけているメンバシップ関数は主観に基づいて決定されていることに注意すべきである.ファジィ集合は,境界の曖昧な集合をメンバシップ関数というものを使ってはっきりと定量的に表現する道具だてを与えるもので,その使い方,つまり,メンバシップ関数の形は,例えば「若い」というような主観概念がうまく表されるように,まさに主観的に決定される.一度メンバシップ関数が決定すれば,表現法としてのファジィ集合そのものには,曖昧性は存在せず理論は主観的に展開される.つまり,メンバシップ関数の形が(または,その決め方が),主観的で曖昧な概念と,客観的なファジィ理論体系との間の橋渡しをしているといえる.
平成12年5月17日