next up previous contents
: ファジィ命題の確率限定 : ファジィ命題の可能性限定 : 様相論理による可能性限定の解釈   目次

可能性限定命題と部分的無知

本節では,可能性限定命題の標準形に現れるタイプ2ファジィ集合がどのような意味をもつのかということについて考察する. 具体的な例として,「若い」という概念を表すファジィ集合Youngが図2.8の上段のようなメンバシップ関数をもつものとする.すると「年齢が若い」という命題は,年齢を表す変数Ageを用いて,
\begin{displaymath}  
\mbox{(Age is Young)}  
\end{displaymath} (2.21)

と表され,また,「年齢が若いということは可能である」という可能性限定命題は,前節までの議論により,図2.8の下段のYoung-$p$なるタイプ2ファジィ集合と年齢を表す変数Ageを用いて,
\begin{displaymath} 
\mbox{((Age is Young) is possible) $=$\ (Age is Young-$p$)} 
\end{displaymath} (2.22)

と表される.ここで,Ageが10才,30才,70才のときに着目してみると,式(2.21)および式(2.22)の真理値は下のようになっている.
  10才 30才 70才
Age is Young 1 0.5 0
Age is Young-$p$ 1 $[0.5,1]$ $[0,1]$

図 2.8   可能性限定命題の例

これをみると,年齢が10才の場合は,命題「10才は若い」も命題「10才は若いということはかのうである」も共に文句なく真である(1である)ことがわかる.しかし,30才の場合,命題「30才は若い」は真理値が0.5と確定しているのに対して,命題「30才は若いということは可能である」の真理値は0.5から1の範囲内にあることはわかるが実際にどの値かはわからない(部分的無知)ことを示している.さらに,年齢が70才の場合を考えると,命題「70才は若い」は真理値が0(つまり文句なく偽)であるのに対して命題「70才は若いということは可能である」は真理値が0から1の範囲にあることしかわからない.つまり,後者の場合,真理値が何になるのか全くわからない(無知)ことを示している. 可能性限定命題は一般に,区間真理値を誘導するが,ここで,区間真理値はその区間内に真理値があることはわかる(部分的な知)がその中のどれか一つに真理値を特定できない(部分的無知)ということを表しているものと解釈される.つまり区間真理値は部分的無知を表現していると考えられ,その中でも区間真理値$[0,1]$は完全に無知であることを表す.これに対して0.5といった確定した真理値は,真理値が「完全な真」と「完全な偽」のちょうど中間にあるとはっきりわかっていることを表しており,そこに無知性は内在していない. このように,可能性限定命題は一般に部分的無知を誘導することになる.先の例でいえば,「70才が若い」ということは偽であるから「年齢が若い」という命題が成立すれば,「その年齢は70でない」ことがわかる.しかし一方,「70才が若いということは可能である」ということは真なのか偽なのか全くわからないのであるから,「年齢が若いということは可能である」という可能性限定命題の成立は「その年齢が70であるかどうか」ということに関する情報を全く与えないことになる.

平成12年5月17日