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: 直観主義論理 : ファジィ論理と種々の論理体系 : 真理値集合と完備束   目次

古典論理

通常,最も馴染みの深いのが古典論理である.古典論理の真理値の集合としては「完備ブール束」と呼ばれる完備束の特殊なものが仮定される.これは,ある完備束の任意の要素$x,y,z$に対して,さらに,
  $\textstyle \begin{tabular}{c}  
$x\lor (y\land z)=(x\lor y)\land(x\lor z)$\\  
$x\land (y\lor z)=(x\land y)\lor(x\land z)$\\  
\end{tabular}$ $\displaystyle \quad (分配律)$ (4.8)

および,
  $\textstyle \begin{tabular}{cc} 
$x\lor \sim x =1$\ & \quad (排中律)\\ 
$x\land \sim x=0$\ & \quad (矛盾律)\\ 
\end{tabular}$   (4.9)

を仮定した特別な完備束である. ここで,排中律と矛盾律は合わせて相補律と呼ばれるが,これは完備束の任意の要素$x$に対して,式(4.9)を満たすようなある要素がその完備束に存在し,それを$\sim x$と定義できることを仮定している.この$\sim x$は元(要素)$x$の補元と呼ばれ,特に,$x$が真理値であるとき,これが$x$の(古典論的)否定を定義していることになる. 「完備ブール束」は,またその代数的性質に着目して「完備ブール代数(complete Boolean algebra)」と呼ばれることもあり,通常,略してcBaと書かれる. このcBaを基礎とした論理体系は,その構造(公理体系)の強力さ故に,論理演算間の関係が密になる.基本的に$\land$$\sim$さえあれば,これにより真理値集合上のどんな演算も定義できることが知られている.例えば,古典論理の任意の真理値(即ちcBaの要素)$x,y$に対して,含意$\rightarrow$(ならば)と撰言$\lor$(または)は
  $\textstyle x\rightarrow y = \sim (x\land \sim y)=\sim x\lor y$   (4.10)
  $\textstyle x\lor y=\sim (\sim x\land y) \qquad (ド・モルガン律)$   (4.11)

と連言($\land$)と否定($\sim$)で表現される.ここで,含意「 $x\rightarrow y$」は意味的には「$x$ならば$y$」を表すが,式(4.10)はこれが,「$x$であってかつ$y$でないことはない」と同値であることを示している.また,
\begin{displaymath}  
\sim\sim x=x  
\end{displaymath} (4.12)

も成立する. このようなcBaの具体例を三つ,図4.4に示す.ここで,通常の2値論理,即ち真理値集合として$\{真,偽\}$あるいは$\{0,1\}$などを用いる場合には,この2値に順序関係を導入すれば,自動的にcBaになってしまう.このため,2値論理においては古典論理は必然である.

図 4.4   cBaの例

しかし,図4.5の3値論理をはじめ,一般に$n$値論理や無現値論理においては,その真理値集合が,もはやcBaにならないため,古典論理ではない.

図 4.5   cBaではないの例

例えば無現値論理,つまり,真理値集合が閉区間$[0,1]$の場合を考えてみると,これは完備束であり,最小元$O=0$,最大元$I=1$となる.しかし,$[0,1]$の一つの要素0.8を持ってくると,$0.8\lor x=1$かつ$0.8\land x=0$となるような$x$は存在しない.つまり,式(4.9)の相補律が成立しない.したがって区間$[0,1]$はcBaではない.

平成12年5月17日