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: 言語的真理値と可能性,必然性および区間真理値 : 可能性,必然性と区間真理値 : ファジィ集合に対する可能性測度と必然性測度   目次


様相論理のKripkeモデルと可能性測度,必然性測度

5.2節,5.3節では「$X$ is $F$」であるときに「$X$ is $A$」である可能性と必然性を測る測度について説明した.本節では,この測度が,4.4節で述べた様相論理のKripkeモデルとどのような関係にあるか議論する.

Kripkeモデルと可能性測度

まず,「$X$ is $A$」の可能性について考える.ここで,命題「$X$ is $A$」を$p$と置く.すると,$p$の真理値は$X$の値を$u$と定めれば$\mu_A(u)$と定まる.したがって,これは,$X$の定義域を可能性世界の全体集合$U$と考え,$u\in U$をある可能性世界と考えれば,付置$v$を用いて,
\begin{displaymath}  
v(p,u)\equiv v((\mbox{$X$\ is $A$}), u)\equiv \mu_A(u)  
\end{displaymath} (5.15)

と表すことができる.つまり,$A$の台集合が可能性世界の全体で,台集合の一つの要素が一つの可能性世界と考えるわけである.図5.6のような1次元のファジィ集合による命題「$X$ is $A$」を例にとると,メンバシップ関数に垂直な断面で切断したそれぞれの切り口が各可能性世界に対応して,「$X$ is $A$」の切り口での真理値(つまりグレード)がその可能性世界での命題「$X$ is $A$」の真理値を与えていると考えることになる(図5.6では6個の可能性世界しか示していないが,この場合,台集合が有限集合なので,可能性世界は実際には無限個ある.).

図 5.6   メンバシップ関数にみる可能性世界

さて,ここで,Kripkeモデルによると,可能性世界$u$における$\Diamond p$の真理値は,式(4.41)によると$u$から到達可能な可能性世界の集合$U_u$$p$が真となる可能性世界の集合$U_p$の共通集合が空集合でないとき,$\Diamond p$は1であると与えられた.ところで,いま興味があるのは,「$X$ is $F$」であるとき,「$X$ is $A$」である可能性である.これは言い換えると,「$X$ is $F$」であるとき,「$\Diamond$($X$ is $A$)」即ち「$\Diamond p$」の真理値をもとめることに他ならない.これをKripkeモデル流に解釈すると,到達可能な可能性世界が$F$で,$p$を真とする可能性世界が$A$である場合の$\Diamond p$を求めることに対応するといえるだろう.ただし,ここで,$F,A$は共に,ファジィ集合であるから,式(4.41)はそのままは使えない.そこで,$\Diamond p$の真理値は$U_p\cap U_u$が要素を持つとどの程度いえるかという度合いであると解釈すれば,
\begin{displaymath}  
v(\Diamond p,u)\equiv \bigvee_w\{\mu_{U_p}(w)\land\mu_{U_u}(w)\}  
\end{displaymath} (5.16)

と式(4.41)をファジィ的に拡張可能である(式(5.16)はクリスプな場合,式(5.14)と同値になる.).ここで,式(5.16)に $p=(\mbox{$X$\ is $A$}), U_p=A, U_u=F$を代入すれば,
\begin{displaymath}  
v(\Diamond (\mbox{$X$\ is $A$}),u)=\bigvee_w\{\mu_A(w)\land\mu_F(w)\}  
\end{displaymath} (5.17)

が得られるが,これは,式(5.8)の可能性測度$\Pi_F(A)$と一致する.つまり,「$X$ is $F$」のとき「$X$ is $A$」の可能性とは,到達可能な可能性世界が$F$であるときの「($X$ is $A$)が可能」の真理値である.ただし,ここで,式(5.17)の$u$,つまり,現在の可能性世界が何であるかについては,具体的にわからないことに注意する.可能性を知るには現在の可能性世界がわかっていなくても,現在の可能性世界から到達可能な可能性世界の集合がわかっていればよいからである.

Kripkeモデルと必然性測度

可能性測度と同様の考察をすると,「$X$ is $F$」であるとき「$X$ is $A$」である必然性は,到達可能な可能性世界が$F$であるときの「($X$ is $A$)が必然」の真理値となるだろう.ここで,Kripkeモデルにおける必然命題真理値の定義は式(4.40)のように与えられたが,これも到達可能世界であってしかも$p$が真ではない可能性世界つまり, $U_u \cap\mbox{not}(U_p)$がどの程度ないといえるかという程度を表していると解釈すれば,
\begin{displaymath}  
v(\Box p,u)\equiv\,\,\sim\bigvee_w\{\mu_{\mbox{not}(U_p)}(w)\land\mu_{U_u}(w)\}  
\end{displaymath} (5.18)

と定義できるだろう.ここで$\sim X=1-X$とすれば,式(5.16)はさらに,
\begin{displaymath} 
v(\Box p,u)\equiv 1-\bigvee_w\{(1-\mu_{U_p}(w))\land\mu_{U_u}(w)\}\bigwedge_w\{\mu_{U_p}(w)\lor(1-\mu_{U_u}(w))\} 
\end{displaymath} (5.19)

となる.もちろん式(5.19)はクリスプな場合,式(4.40)に一致する.ここで,式(5.19)に $p=(\mbox{$X$\ is $A$}), U_p=A, U_u=F$を代入すれば,
\begin{displaymath}  
v(\Box (\mbox{$X$\ is $A$}), u)=\bigwedge_w\{\mu_A(w)\lor(1-\mu_F(w))\}  
\end{displaymath} (5.20)

が得られ,これは式(5.11)の$N_F(A)$と一致する.
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平成12年5月17日