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: 様相論理による可能性限定の解釈 : ファジィ命題の可能性限定 : ファジィ命題の可能性限定   目次

可能性限定命題とその標準形

1.1節で説明した,真理値限定命題とは,「$X$ is $A$」という標準形命題をファジィ真理値$\tau$で限定(修飾)した,

\begin{displaymath}  
\mbox{($X$ is $A$) is $\tau$}  
\end{displaymath}

という形の命題であった.具体的な例をあげると,「彼の年齢が若いということは,ほぼ真である」というような命題が真理値限定命題であり,これから「彼の年齢は大体これこれである」という標準形の同値命題を求める操作が真理値限定であった. ここで,取り扱う可能性限定命題とは,「$X$ is $A$」という標準形命題を可能性に関する性質を限定する言葉:「可能(possible)」,「不可能(impossible)」,「必然(necessary)」および「偶然(contingent)」で限定(修飾)した,
\begin{displaymath}  
\mbox{($X$\ is $A$) is possible}  
\end{displaymath} (2.1)


\begin{displaymath} 
\mbox{($X$\ is $A$) is impossible} 
\end{displaymath} (2.2)


\begin{displaymath} 
\mbox{($X$\ is $A$) is necessary} 
\end{displaymath} (2.3)


\begin{displaymath} 
\mbox{($X$\ is $A$) is contingent} 
\end{displaymath} (2.4)

という形の命題であり,これらの可能性限定命題と同値な標準形命題を求める操作を可能性限定とよぶ.例えば,「彼の年齢が若いということは可能である」というのが可能性限定命題であり,これから,「彼の年齢は大体これこれである」という標準形の同値命題を求める操作が可能性限定である. 通常,可能性限定命題というと,式(2.1),式(2.2)のような「可能性」および「不可能性」によって限定された命題を指す場合が多いが,ここでは,「可能性」,「不可能性」とともに「必然性」および「偶然性」についても統一的に取り扱うものとする.これは,これら4つの概念が様相概念として密接に関連しあっているためである(様相概念に関する議論については,第4章も参照されたい.). ここではまず議論から先に示す.例えばファジィ集合$A$のメンバシップ関数として,図2.1に示すものを仮定すると,式(2.1)から式(2.4)までの可能性限定命題は,それぞれ図2.2から図2.5までに示すファジィ集合を用いて,
\begin{displaymath}  
\mbox{$X$\ is $A_p$}  
\end{displaymath} (2.5)


\begin{displaymath} 
\mbox{$X$\ is $A_i$} 
\end{displaymath} (2.6)


\begin{displaymath} 
\mbox{$X$\ is $A_n$} 
\end{displaymath} (2.7)


\begin{displaymath} 
\mbox{$X$\ is $A_c$} 
\end{displaymath} (2.8)

なる標準形命題と同値となる.ここで,$A$がタイプ1のファジィ集合であるにもかかわらず,可能性限定命題の標準形を与えるファジィ集合$A_p,A_iA_n$及び$A_c$は共に,メンバシップ関数のグレードとして区間値をとる,いわゆるタイプ2ファジィ集合(の特別な場合)になっていることに注意する.図の例で,例えば,$X=u$のときの$A$のグレードは$\mu_A(u)$であるが,このときの$A_p,A_i,A_n$及び$A_c$のグレードはそれぞれ, $[\mu_A(u),1],[0,1-\mu_A(u)],[0,\mu_A(u)]$および $[1-\mu_A(u),1]$なる区間値である.

図 2.1   ($X$ is $A$)の例

図 2.2   (($X$ is $A$) is possible)の例

図 2.3   (($X$ is $A$) is impossible)の例

図 2.4   (($X$ is $A$) is necessary)の例

図 2.5   (($X$ is $A$) is contingent)の例

このような標準形が導かれる理由の一つの解釈の仕方としては,次のように考えることができよう. まず式(2.1)であるが,これは,「($X$ is $A$)ということが可能である」ということを表している.ここで,図2.6$A_{p1}$$A_{p2}$のような$A$を包含するようなファジィ集合を作って,「$X$ is $A_{p1}$」や「$X$ is $A_{p2}$」なる標準形命題を考えてみる.すると「$X$ is $A$」ということができれば,これらの標準形命題が成立することが継承原理より容易にわかる.これは,$A$を包含するすべてのファジィ集合についていえることであるから,結局「$X$ is $A$」ということができるということは,(即ち「($X$ is $A$)ということが可能」ということは),$A$を包含するような任意のファジィ集合$A_{px}$に対して「$X$ is $A_{px}$」が成立することに他ならない.そこでこのような$A_{px}$をすべて重ね合わせると,即ちこれが区間値グレードを持つタイプ2ファジィ集合$A_p$となり,式(2.5)が導かれることになる.

図 2.6   ファジィ集合$A$を包含するファジィ集合の例

図 2.7   ファジィ集合$A$に包含されるファジィ集合の例

次に式(2.2)は「($X$ is $A$)ということが不可能である」ということを表しているのだが,これは,「($X$ is $A$)ということが可能である」ことを否定していることに他ならない.これは,式(2.1)の命題の否定であり,したがって当然,式(2.5)の命題の否定である.ここで,式(2.5)の命題の否定命題は,$A_p$の補集合not($A_p$)を用いて,
$X$ is not($A_p$)
と表されるが,ここで,

\begin{displaymath}  
A_i=\mbox{not}(A_p)  
\end{displaymath}

となっているから(タイプ2ファジィ集合の否定演算子$n(x)=1-x$に基づく補集合計算から明らか),結局,式(2.6)が導出される. さて,式(2.3)は,「($X$ is $A$)ということが必然である」こと,あるいは同じことだが「($X$ is $A$)と必然的にいえる」ということを意味している.ここで,図2.7$A_{p1}$$A_{p2}$のような$A$に包含されるようなファジィ集合を作って,「$X$ is $A_{p1}$」や「$X$ is $A_{p2}$」なる標準形命題を考える.するとこれらの命題の成立から「$X$ is $A$」の成立が必然的にいえることが,継承原理から明らかである.同様のことは,$A$に包含されるすべてのファジィ集合についていえるから,結局「$X$ is $A$」が必然的にいえるということは,$A$に包含される任意のファジィ集合$A_{nx}$に対して「$X$ is $A_{ix}$」が成立することである.したがってこのようなすべての$A_{nx}$を重ね合わせると,区間値グレードを持つタイプ2ファジィ集合$A_n$が得られ,式(2.7)が導かれることになる. 最後の式(2.4)は「($X$ is $A$)ということは偶然である」ことを示している.これは,内容的に「($X$ is $A$)ということは必然である(式(2.7))」ことの否定である.したがって,式(2.6)の導出と同様の議論により,$A_n$の補集合から式(2.8)が導出される.
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平成12年5月17日