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: ファジィ推論法1 : ファジィ推論の概要 : ファジィ推論の概要   目次


ファジィ推論あるいはファジィ制御とは

通常の推論は,いくつかの命題からある一つの命題を導き出すことであるが,ファジィ推論は,いくつかのファジィ命題からある一つの命題(あるいはファジィ命題)を導き出す推論法である.通常の理論における命題は客観的に真か偽か判断できるものでなければならないが,ファジィ命題は主観的にファジィ集合を用いて表され,曖昧さが許容される.例えば,「車のスピードが90キロ以上である.」という表現は命題であるが,「車のスピードがとても速い」という表現は通常は命題ではない.しかし後者は,「とても速いスピード」の集合をファジィ集合で定義すればファジィ命題となる.このような推論は,人間の通常の生活における判断とよく対応している.例えば,

 

「もし車のスピードが速ければ危険である.」

「車のスピードがとても速い」
 
 
という二つのファジィ命題から,人間は容易に

 

「非常に危険である.」
 
 
というファジィ命題を結論として推論できる.ここでは,「速い」あるいは「とても速い」ということが時速何キロのことであるかということを精密に知る必要はない.ファジィ推論は,「速い」あるいは「とても速い」という概念を,「車のスピード」という全体集合の中のファジィ集合として定義し,それによりファジィ命題を表し,さらにそれらのファジィ命題間の関係から,上のような推論を行う技術である.つまり概念や言葉の定義の曖昧さ,大ざっぱさをそのまま取り扱う推論技術であるともいえる. ファジィ制御技術は,上のファジィ推論技術の最も簡単な応用技術といってよいだろう.つまり,現在の大ざっぱな状況から,ファジィ推論技術を用いて適当な制御量を推論するのである.例えば,

 

「車のスピードが速すぎればアクセルを戻す」

「車のスピードがすこし速すぎる」



というファジィ命題から,

 

「アクセルをすこし戻す」
 
 
を推論して,そのようにアクセルを制御する. このように,ファジィ推論は大ざっぱな概念を用いて推論をするものだが,推論結果は必ずしも大ざっぱにはならない.それは,ファジィ推論では,ファジィ命題の真偽の曖昧さゆえに程度の問題を扱えるからだ.例えば上の制御例では,「速すぎる」ときの対応しかルールとして記述されていないのに,「すこし速すぎる」場合の対応が的確に推論される. このようなファジィ推論技術はミクロにみれば複雑な問題を「概念」や「言葉」というようなマクロなかたまりに整理して,問題を簡単化して推論する技術である.この技術は,以下のような問題解決に非常に強力な手段となる.

1) 問題が複雑すぎて厳密な推論ルールを記述できない場合

エキスパート・システムのようにエキスパートの経験則をある程度言葉で書き並べることはできるが,それぞれのルールを定式化したり,ルール間の関係が明確でない場合.この場合は,定性的なルールを曖昧な形のままファジィ命題として書き並べてファジィ推論を行う.

2) 厳密な推論よりもリアルタイム性が重要な場合

厳密に解こうと思えば解けるが,解くのに時間がかかり過ぎる場合.しかも厳密性が必ずしも必要でない場合.例えば,台の上の棒を立てて棒が倒れないように台の動きを制御する倒立振子の制御を考えればよい.棒の角度によって運動方程式を解いて,棒が倒れないように台座を動かすことは,理論的には可能だが,棒が倒れてしまう前に解を得るためには,相当の計算パワーが必要だろう.しかし,「棒が少し倒れたら,台を少し逆に動かす.」という程度のファジィ命題による推論で,棒は倒れずに制御されることは容易に想像がつく.掌に棒をたてて倒さないようにするとき,人は何も運動方程式を解いてはいない.

3) 問題が本質的にファジィな場合

例えば,データベースなどで自然言語を使って検索をする場合は本質的にファジィな言語概念を取り扱う必要がある.人の年齢の入力されているデータベースの中から「年齢の比較的若い人」を検索しようとする場合などがそれである.

平成12年5月17日