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ファジィ集合とメンバシップ関数

ファジィ集合のメンバシップ関数による定義

ファジィ集合(fuzzy set)は,ある全体集合(これは,クリスプ集合,つまり,通常の意味での集合であることに注意)の中のファジィ部分集合として定義される.全体集合を$U$とすれば,あるファジィ集合$A$は,

\begin{displaymath}     
\mu_A : U \rightarrow [0,1]     
\end{displaymath}

なるメンバシップ関数

\begin{displaymath}     
M=\mu_A(x)     
\end{displaymath}

によって特徴づけられる.つまり,ファジィ集合は,全体集合$U$を定義域,区間$[0,1]$を値域とする関数(メンバシップ関数)によって定義される.ここで,全体集合のある要素$u (\in U)$に対するメンバシップ関数の値

\begin{displaymath}     
\mu_A(u)     
\end{displaymath}

は,$u$のファジィ集合$A$における帰属度(別名,グレード,所属度,確信度など)を表す.ここで,ファジィ集合を定義とする基となる全体集合(ここでは,$U$にあたる)は台集合と呼ばれることもあり,「全体集合$U$の部分集合ファジィ集合$A$」を「台集合$U$上のファジィ集合$A$」ということもある. 例えば,全体集合$U$を区間$[0,100]$,つまり,0以上100以下の実数とすると,図4.1(a)のようにファジィ集合$A$を定義することができる.

図 4.1   ファジィ集合とクリスプ集合

(a) ファジィ集合のメンバシップ関数による表現

(b) クリスプ集合のメンバシップ関数(特性関数)による表現

(c) クリスプ集合の区間による表現

注意

ここで,$X$は全体集合$U$の要素を示す変数,$M$は帰属度の集合$[0,1]$の要素を示す変数とする.これに対して,$u$$U$のある要素そのもの,つまり,変数$X$の値とする.また,このとき,$\mu_A(u)$は,変数$M$の値である.通常,変数と値を明確に区別して書かない場合も多いが,本報告では,説明の都合上,明確に区別する場合があるので注意されたい.

メンバシップ関数と特性関数

通常の集合(クリスプ集合)はファジィ集合の特別な場合と考えられるから,これをメンバシップ関数により定義することは可能である.例えば図4.1(b)のようにクリスプ集合$B$をメンバシップ関数

\begin{displaymath}     
M=\mu_B(X)     
\end{displaymath}

で定義することができる.ここで,集合$B$を数値線上の区間として通常の表現で表すと図4.1(c)となる.クリスプ集合では,含まれるか,含まれないかの二つの状態しかなく,その中間の状態はないため,メンバシップ関数は値1(含まれる)か値0(含まれない)のいずれかしか採らない.つまり,クリスプ集合のメンバシップ関数の値域は,$\{0,1\}$となる.ここで,重要なことは,このメンバシップ関数は,通常の集合に定義されている「特性関数」とまったく同じものになっていることである.つまり逆にいえば,メンバシップ関数は,通常の集合の特性関数の拡張であるとみなすことができる.ファジィ集合は,通常の集合(クリスプ集合)の特性関数の値域を$\{0,1\}$から$[0,1]$へと拡張し,それをメンバシップ関数と名付けたものと考えればよい.

全体集合が有限集合の場合

クリスプ集合には,区間$[0,10]$のように要素の数が無限個の集合と,$\{3,5,7,$ $11\}$のように要素数が有限個のものがある.ファジィ集合の場合にも有限集合が存在するが,それは,全体集合(台集合)の性質による. 全体集合$U$が有限集合である場合,メンバシップ関数の定義域が離散的になるので,当然その形も離散的になる.いまここで,全体集合$U$を有限集合

\begin{displaymath}     
\{1,2,3,4,5,6,7,8,9,10\}     
\end{displaymath}

つまり,10以下の自然数とした場合,例えば,図4.2のような離散的なメンバシップ関数によって,ある有限ファジィ集合$A$は定義される.

図 4.2   有限ファジィ集合の例

ファジィ集合のメンバシップ関数による表記法

ファジィ集合はメンバシップ関数によって定義されるから,それらは1対1に対応する.したがって,ファジィ集合の表記には,通常,メンバシップ関数を用いた表記法がよく用いられる. まず全体集合$U$が有限集合

\begin{displaymath}     
\{u_1,u_2,...,u_n\}     
\end{displaymath}

の場合,ファジィ集合$A$は,全体集合のそれぞれの要素に対するメンバシップ関数の値(帰属度,グレード)

\begin{displaymath}     
\mu_A(u_1),\mu_A(u_2),...,\mu_A(u_n)     
\end{displaymath}

を用いて,


と表される.ここで,$/$はセパレータで,$+$は「重ね合わせ」を意味する.つまり,全体集合の各要素とそれに対応するグレードの組をセパレータを用いて一つの項として表し,さらにそれらすべての組の「重ね合わせ」として,ファジィ集合を表記する.したがって,もし,二つの項の要素が同じだったら,一項にまとめることができる.例えば,

\begin{displaymath}    
a/u+b/u=(a\vee b)\big/u    
\end{displaymath}

である.またグレードが0の場合は,その項の表記は普通省略する.

注意

ここで,「重ね合わせ」という言葉を,「論理和($\vee$)で定義される結び($\cup$)」という意味で用いた.通常ほとんどの文献では,「$+$$\cup$の意味である.」として議論を進めているが,ここでは意識的にこれを避けた.なぜなら$\cup$の定義は$s$- ノルムの選び方によって変わるからである(4.2節,4.3節を参照).ここでは,$+$は「重ね合わせ」として(結びの定義とは無関係に)常に$\vee$(あるいは上限supといった方がより正確だが)によって与えられるものと理解したほうが混乱を招かないであろう.この「重ね合わせ」は「結び」よりもむしろ後に説明する「射影」の概念に深い関係がある. 有限ファジィ集合の場合のもっと簡略な表記法として,ベクトル表現

\begin{displaymath}     
A=[\mu_A(u_1),\mu_A(u_2),...,\mu_A(u_n)]     
\end{displaymath}

が用いられることもある.ただし,ここでは,ベクトルのどの位置が,どの要素に対応するかは事前に了解されているものとする. 例えば,図4.2のファジィ集合は,


または,

\begin{displaymath}    
A=[0,0,0.1,0.6,1,1,0.6,0.2,0,0]    
\end{displaymath}

と表記される. 全体集合$U$が連続の場合は,積分記号を用いて,

\begin{displaymath}     
\int_U \mu_A(u)\big/u     
\end{displaymath}

と表記する.

注意

上のように,ファジィ集合の表記に$\sum$や積分記号を用いているが,これらは,通常の数学で用いる$\sum$記号や積分記号とは直接関係がない.また記号$/$も単にセパレータとして用いられているのであり除算とは関係ない.ここで用いられる$\sum$記号や積分記号は,通常の用法と概念的に似たところがあるために,ファジィ集合の表現に流用しているにすぎない.したがって,これらの記号は単に表記上の約束事と考えて通常の積分などと混同しないようにする必要がある.
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平成12年5月17日