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ルールが複数の場合の推論

5.3では,ルールつまりファジィ含意がひとつだけの場合について考察した.しかし現実の推論においては3章でみたように複数のルールから推論を行う必要がある.ひとつひとつのルールは標準型で表すことができるから,一般に複雑のルールは下のように書き並べられるだろう.


さて,これらのルールの間は「and」で結ばれるべきだろうか,それとも「or」で結ばれるべきだろうか.ルールが複数の場合の推論についての研究はいまだあまり進んでいるとはいえないが, $(A\rightarrow B)$の実現法によってその解釈が違ってくることが知られている.つまり,

\begin{displaymath}   
\begin{tabular}{ll}   
Zadehの含意,Lukasiewiezの含意 &$\cdots$ 「and」\\   
Mandaniの含意 &$\cdots$ 「or」   
\end{tabular}   
\end{displaymath}

と解釈されるべきなのである.このような違いは,ZadehとLukasiewiezの含意の場合,5.2節で考察したように,

\begin{displaymath}   
\mbox{if ($X$ is $A$) then ($Y$ is $B$) else ($Y$ is $V$)}   
\end{displaymath}

を表していると解釈される.つまり,前件部に当てはまらない場合は不定であるという情報が付加された形になっているのに対して,Mandaniの含意の場合は,

\begin{displaymath}   
\mbox{if ($X$ is $A$) then ($Y$ is $B$)}   
\end{displaymath}

だけを表して,前件部に当てはまらない場合については,何もいっていないからである. ZadehとLukasiewiezの含意の場合は,それぞれのルールの前件部が,

\begin{displaymath}   
\begin{tabular}{llllll}   
(($X$ is $A_1$)&$\rightarrow$&(($X...   
...\,\,($X$ is not($A_3$))&$\rightarrow\cdots$)))   
\end{tabular}   
\end{displaymath}

と入れ子になり従属に結合するため,それぞれのルールは,「and」で結合される.これに対して,Mandaniの含意の場合は,
($X$ is $A_1$) $\rightarrow$ ($Y$ is $B_1$)
($X$ is $A_2$) $\rightarrow$ ($Y$ is $B_2$)
($X$ is $A_3$) $\rightarrow$ ($Y$ is $B_3$)
$\vdots$
と単に並列に並べればよいから,それぞれのルールは「or」で結合される. さて,複数のルールが,「and」または「or」によって結合していると解釈されれば,それらのルールは5.3節の(1)の連言規則または(2)の規則を繰り返し用いることにより一つのルールに集約され,結局,(7)の一般化肯定式による単数のルールを用いた推論問題に帰着できる. ここで,上の結合結果を考えると,Mandaniの方法が最もシンプルな結果を導出するであろうことが推察されるが,事実,そうであり,それが,複数のルールを用いる実用的なシステムでは,Mandaniの方法が主に使われる理由になっている. 例えば,Mandaniの含意を用いると,二つの規則の場合,

と推論されるが,この様子を,図5.19に示す.この場合は,全体の推論結果が,結果的に,それぞれのルールによる推論結果

\begin{displaymath}  
C\circ(A_1\rightarrow B_1),\quad C\circ(A_2\rightarrow B_2)  
\end{displaymath}

の重ねあわせとして得られることに注意されたい.これが,3.2節のファジィ推論法1において,それぞれのルールの推論結果の重ね合わせとして全体の推論結果を得た理論的裏付けを与えている.

図 5.19   複数のルールに対するMandaniの含意による推論の説明図

Zadehの含意に関するコメント

Zadehの含意を複数のルールに適用する場合,通常は上で述べたようにまず各々のルールに対してZadehの含意を求め,その後にそれらを$\cap$で結合して全体の含意を求めるのだが,以下のように,Zadehの含意自体を複数のルール向けに拡張すれば,Mandaniの含意とそう変わらない程度の複雑さで,複数のルールにZadehの含意の考え方を適用できるものと思う.即ち,
($X$ is $A_1$) $\rightarrow$ ($Y$ is $B_1$)
($X$ is $A_2$) $\rightarrow$ ($Y$ is $B_2$)
$\vdots$
($X$ is $A_n$) $\rightarrow$ ($Y$ is $B_n$)
($X$ is $N$) $\rightarrow$ ($Y$ is $V$)
が並列に「or」で結合されていると考えるのである.ただし,

\begin{displaymath}  
N=\mbox{not}(A_1)\cap\mbox{not}(A_2)\cap\cdots\cap\mbox{not}(A_n)  
\end{displaymath}

とする.5.2節で考察したように,Zadehの含意がMandaniの含意をコンポーネントとしてその組合せでできていると考えれば,このような拡張は自然であろう.
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平成12年5月17日