next up previous contents
: ファジィ集合と可能性と確率と : ファジイ理論の概要 : ファジィ集合   目次


ファジィ集合の基礎的演算

ファジィ集合に対する,基本的演算として,包含,交わり,結び,補集合が以下のように定義される.ここで,図2.3のファジィ集合$A,B,C$のメンバシップ関数をそれぞれ

\begin{displaymath}    
\mu_{A}(u),\,\,\mu_{B}(u),\,\,\mu_{C}(u)    
\end{displaymath}

とする.

図 2.3   ファジィ集合の基本演算(包含,交わり,結び,補集合)

包含(C⊆A)

2.3のファジィ集合$C$$A$のように,全体集合のどの要素$u$に対しても,

\begin{displaymath}    
\mu_{C}(u) \leq \mu_{A}(u)    
\end{displaymath}

であるとき,$C$$A$に含まれる($C \subseteq A$)という.

交わり,共通集合(A∩B)

ファジィ集合$A$$B$の交わり(または共通集合)$A\cap B$は,$A$$B$のメンバシップ関数の値のうち小さい方を,その値としてもつメンバシップ関数によって表される.即ち$A\cap B$のメンバシップ関数は,全体集合のすべての要素$u$に対して,

\begin{displaymath}    
\mu_{A \cap B}(u)=\mu_{A}(u) \land \mu_{B}(u)    
\end{displaymath}

と与えられる.

結び,和集合(A∪B)

ファジィ集合$A$$B$の結び(または和集合)$A\cup B$は,$A$$B$のメンバシップ関数の値のうち大きい方を,その値としてもつメンバシップ関数によって表される.即ち$A\cup B$のメンバシップ関数は,全体集合のすべての要素$u$に対して,

\begin{displaymath}    
\mu_{A \cup B}=\mu_{A}(u) \lor \mu_{B}(u)    
\end{displaymath}

と与えられる.

補集合(not(A))

ファジィ集合$A$の補集合not($A$)は,$A$の上下を反転したメンバシップ関数によって表される.即ち,not($A$)のメンバシップ関数は,

\begin{displaymath}   
\mu_{\mbox{not}(A)}(u)=1-\mu_{A}(u)   
\end{displaymath}

と与えられる. ここで,$\land$は小さい方,$\lor$は大きい方をとる演算であり,


とも表される. クリスプ集合をファジィ集合の一種とみなして,上のように定義されたファジィ集合演算を適用すれば,図2.4のような結果が得られ,通常のクリスプ集合に対する集合演算に一致することがわかる.したがって,このファジィ集合演算は,通常の集合演算の拡張となっていることがわかる.

図 2.4   ファジィ集合基本演算のクリスプ集合への適用

さてここで,図2.2で定義された「若い人の集まり」をファジィ集合Youngとすれば,その補集合not(Young),つまり「若くない人の集まり」は図2.5(a)のように求められる.またファジィ集合Young $\cap$ not(Young),つまり「若いとも若くないともいえる人の集まり」が,図2.5(b)のように得られる.「若い人」の定義を主観的に与えるだけで,「若くない人」や「若いとも若くないともいえる人」が客観的なファジィ集合演算によって導出されることに注目されたい.

図 2.5   ファジィ集合Youngに対する演算例

(a) Youngとnot(Young)

(b) Young ∩ not(Young)

また,クリスプ集合では,


が常に成り立つ($\phi$:空集合,$\Omega$:全体集合)が,ファジィ集合では,一般に,矛盾律も排中律も成立しないこと,またそのため,Young $\cap$ not(Young)が空集合にならないこと,しかもこれが普通の人間の言語表現によく対応していることにも注目したい.

注意

ファジィ理論に関する入門書では,普通,上のようなファジィ集合演算が天下り的に定義される.確かにこの定義は,クリスプ集合の集合演算の拡張になっているという意味ではある程度受け入れられるものであるが,その必然性には釈然としないものが残る.事実,通常の集合演算をファジィ集合に拡張する方法は,他にいくらでも考えられ,また実際に提案されている.この詳細については,4.2節,4.3節を参照されたい. ここでは,実際上は,上の定義による集合演算が一般に広く用いられていること,またそれは,計算の簡単さと,ファジィ集合を可能性分布とみなした場合の整合性という観点から用いられるのだということを述べるにとどめる.

平成12年5月17日