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: 参考文献 : ソフトコンピューティング 講義資料(II) : FI論理の量子化定理   目次

結言

本報告書の各章を概括すると次のようになる.

第1章

限定命題の第一として逆真理値限定問題について概説した.この逆真理値命題は,言語的真理値によって限定されたファジィ命題の標準形を求める真理値限定問題のちょうど逆の過程であり,標準形のファジィ命題を仮定したときに別のファジィ命題を限定する言語的真理値を求める手法であった.ここで,一般に逆真理値限定によって求められる真理値限定ファジィ命題は,もとの標準形ファジィ命題と一般には同値にはならず,もとの命題より曖昧さが少し広がった形で得られた.また,この逆真理値限定法は,とくに認識関係にファジィ理論を応用する場合に重要となる技術であることを示した.

第2章

限定命題の第二としてファジィ命題の可能性限定問題について概説した.これは,あるファジィ命題が「可能である」,「必然である」などの可能性に関係のある言葉で限定された場合に,これと同値なファジィ命題の標準形を求める問題であった.ここで,もとの可能性限定されるファジィ命題がタイプ1ファジィ集合によって表されているにもかかわらず,これと同値な標準形命題のファジィ集合は区間値グレードを持ち,タイプ2ファジィ集合の特別な場合となることを示した.また可能性限定法が様相理論と,直観主義論理の含意を用いても導出されることを示した.さらに,可能性限定によって,区間値真理値が導入されることは,部分的な無知の概念を導入したことになることを例に挙げて説明した.

第3章

限定命題の第三としてファジィ命題の確率限定問題について概説した.ここで,確率限定命題は等価な傾向命題に置き換えることができた.またその傾向命題はさらに,相対シグマカウントとファジィ限量作用素を用いた命題に置き換えられ,その真理値が数値的真理値として求められることを示した.また最後に確率限定法の意味を具体的な例を挙げて説明した.

第4章

ここでは,以下で,タイプ2ファジィ集合に関する性質をさらに深く考察するための準備として,ファジィ理論以外の論理体系とファジィ論理体系の関係について考察した.まず,一般的に真理地の集合の数学的な構造として,少なくとも完備束となることが重要であることを示した.次に各々の論理体系の真理値集合の代数的構造について概説した.古典論理はcBaなる代数構造を持つ真理値集合上での論理体系であり,2値論理がその代表例であった.直観主義論理はcHaなる代数構造を持つ真理値集合上での論理体系であり,多値論理や無限値論理はその例となっていた.またこれは,古典論理の一般化でもあった.古典論理の別の方向への一般化である様相論理は可能,必然などの様相概念を扱える論理であり,可能性世界を用いたKripkeモデルによってうまく説明されることを紹介した.最後にこれらの論理とファジィ論理の関係について考察した.ここで,古典論理は,ファジィ論理に限らず,他のすべての論理に関する議論の台となる論理として重要であることを示した.またグレードが$[0,1]$の無限値論理となっているタイプ1ファジィ集合ではその元となる論理体系に直観主義論理の概念を導入することが不可欠であることを示した.また種々に提案されている含意についての古典論理,あるいは直観主義論理の立場からの解釈を試みた.さらにタイプ2ファジィ集合の真理値は様相性の概念と深く結びついていることを示唆した.

第5章

可能性,必然性を求める可能性速度と必然性測度がどのように定義されるか概説した.また可能性測度,必然性測度により可能性,必然性を測ることは,様相論理におけるKripkeのモデルに対応させて考えると,命題を真にする可能性世界と到達可能な可能性世界がわかっているときに,その命題の可能性限定と必然性限定の真理値を求めることに等しいことを考察した.次に逆真理値限定法によって得られる言語的真理値と可能性測度,必然性測度にはある関係があることを示した.さらに区間真理値と可能性,必然性の関係を考察し,可能性測度と必然性測度から求められる区間真理値が逆真理値限定法によって求められる言語的真理値のよい近似となることを考察により示した.最後に,ファジィ数の大小関係に関する指標が可能性測度と必然性測度を基に求められることを説明した.

第6章

ここでは,区間真理値の一般化として最近提案されたファジィ・インターバル(FI)論理の真理値について概説した.このFI真理値は,区間真理値では表し得なかった,正規でない言語的真理値,即ち,矛盾を含む真理値をも表現できる能力をもっているにもかかわらず,その代数的構造は2重のド・モルガン代数となっており,論理演算がうまく取り扱える真理値であった.また,FI論理は基本的に真,偽,無知,矛盾の4値に量子化されることが示された.
本報告の内容によって,ファジィ理論を認識に用いる場合,タイプ2ファジィ集合を取り扱うことが不可欠であることがはっきりしてきた.また,この場合タイプ2ファジィ集合の一般的な真理値である言語的真理値をそのまま取り扱うのは困難であり,その代わり,FI真理値のように,表現力と論理演算の容易さを両方兼ね備えた真理値モデルを利用することが望ましいと思われる.



平成12年5月17日